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東京地方裁判所 平成8年(ワ)21815号 判決 1999年5月17日

主文

一  被告は、原告に対し、金三六〇〇万円及びこれに対する平成八年七月三一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨。

第二  事案の概要

本件は、訴外Bが被告との間で締結した二つの保険契約に基づき、右各保険契約の保険金受取人である原告が、被告に対し、訴外Bの死亡保険金(終身保険及び定期保険特約の各死亡保険金合計金三〇〇〇万円並びに傷害特約による災害死亡保険金二件合計金六〇〇万円)合計金三六〇〇万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成八年七月三一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実等(証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)

1  訴外B(以下「B」という。)は、被告との間において、Bを契約者及び被保険者、妻である原告を保険金受取人として、左記のとおり、生命保険契約を締結した。

(一) 契約日  平成二年五月一日

証券番号  九〇〇五組第〇一四二九九号

保険の種類 定期保険特約付・終身保険(S六二)

保険金額  終身保険の死亡保険金      五〇〇万円

定期保険特約の死亡保険金   一五〇〇万円

傷害特約による災害死亡保険金  一〇〇万円

(以下、これを「本件<1>契約」という。)

(二) 契約日  平成三年一一月二―日

証券番号  九一一一組第一六一五四八号

保険の種類 定期保険特約付・終身保険(S六二)

保険金額  終身保険の死亡保険金      二〇〇万円

定期保険特約の死亡保険金   二八〇〇万円

傷害特約による災害死亡保険金  五〇〇万円

(以下、これを「本件<2>契約」といい、本件<1>契約と合わせて「本件各契約」という。)

2  Bは、平成四年五月一七日日曜日午前八時ころ、自宅を出たまま帰宅しなかったため、原告は、同月一九日、地元の城東警察署に捜索願を提出した。

ただし、被告は、後日原告からの保険金請求の照会があるまでBの失踪の事実を知らなかった。

3  原告は、平成五年六月二四日、B名で本件<1>契約について定期延長保険への変更の請求を行った。その結果、本件<1>契約に関しては、今後支払うべき保険料の支払が中止され、保障する保険期間が従前支払った保険料の責任準備金積立金に対応する保険期間に変更された。(乙四、弁論の全趣旨)

4  原告は、平成五年一一月一〇日、B名で本件<2>契約の特約部分の解約の請求を行った。その結果、その後支払うべき特約部分の保険料の支払義務が消滅した。(乙八、弁論の全趣旨)

5  原告は、平成五年一二月二二日、Bの代理人として本件<1>契約の解約手続を行い、被告から本件<1>契約の解約返戻金四〇万二一八九円の支払を受けた。(乙五、六、弁論の全趣旨)

6  原告は、平成七年一一月一日、Bの代理人として本件<2>契約の解約手続を行い、被告から本件<2>契約の解約返戻金六〇万五〇〇〇円の支払を受けた。(乙九、一〇、弁論の全趣旨)

7  Bは、平成八年一月七日、静岡県裾野市の芦ノ湖スカイライン杓子峠展望台西方一五〇メートルの山林内で乗用車と共に死体で発見されたが、死亡時期については平成四年五月ころと推定された。(乙一一、弁論の全趣旨)

8  原告は、平成八年二月二一日、被告に対して本件各契約の保険金請求についての照会をし、平成八年四月二七日及び同年五月二日に被告担当者と交渉を重ねた。

9  原告は、平成八年五月二二日、被告から、本件<1>契約の終身保険及び定期保険特約の各死亡保険金合計金二〇〇〇万円に配当金(金三万五六五三円)及び戻し保険料(金三五万七七八〇円)を加えた金額から、既に受領済みの本件<1>契約の解約返戻金四〇万二一八〇円を控除した金額である金一九九九万一二四四円(以下「本件既払金」という。)を受領した。(甲六の3、弁論の全趣旨)

10  原告は、平成八年七月三〇日到達の内容証明郵便により、被告に対し、本件各契約に基づく残余の保険金の支払を請求したが、被告が本件既払金以外の支払には応じようとしないので、同年一一月七日、被告に対し、本件訴訟を提起した。(乙一八、弁論の全趣旨)

11  なお、本件各契約の保険約款においては、

(一) 終身保険及び定期保険特約の各死亡保険金の「支払事由」として、「被保険者が死亡したとき」とされており、「責任開始期の属する日から起算して一年以内の自殺」は「免責事由」と規定されており(終身約款一条、定期特約条項一条)

(二) 災害死亡保険金については、「この特約の責任開始期以後に発生した不慮の事故(特約条項別表2によれば、不慮の事故とは『急激かつ偶発的な外来の事故』で、かつ同表記載の分類項目に該当するものと定義されている。)による傷害を直接の原因として、その事故の日から起算して一八〇日以内に死亡したとき」に支払われること(傷害特約条項四条一項)、及び、被保険者が被保険者の故意または重大な過失によって死亡したときは、災害死亡保険金を支払わない旨(傷害特約条項八条一項一号)規定されており

(三) 保険金の消滅時効に関しては、「保険金を請求する権利は、支払事由が生じた日の翌日からその日を含めて三年間請求がない場合には消滅します。」と規定されている(終身約款三九条等)。

二  主たる争点及び主張の要旨

1  傷害特約による災害死亡保険金に関し、Bの死亡が不慮の事故によるものか、同人の故意(自殺)によるものか。その立証責任をどちらが負担するのか。

【原告】

保険金請求者は、事故が「不慮の事故」であることについて、急激性及び外来性の立証をすれば足り、偶然性については、傷害特約条項八条一項一号に被保険者の故意または重大な過失により支払事由に該当した場合には災害保険は支払わない旨規定されていることとの対比上、その不存在について保険者側が立証すべきである。

本件の事故は、Βが、平成四年五月ころ、芦ノ湖スカイラインを箱根峠方面から御殿場方面に車両で走行中、杓子峠付近で右カーブを曲がりきれず、車線左側にはみ出し、同峠広場の右手から約一〇メートルの地点から車両ごと転落して、右転落時に負った傷害を原因として死亡したものであり、右事故が不慮の事故であることの具体的事実の主張はこれで尽くされており、右主張事実は証拠によって容易に認められるから、原告は、本件各契約による災害死亡特約保険金請求権を有する。

【被告】

保険金請求者は、保険事故が「不慮の事故」により生じたものであること、すなわち、当該事故が「急激かつ偶然的な外来の事故」であり、かつ傷害特約約款別表2記載の分類項目に該当することを主張、立証することが必要である。

本件の事故は、Bによる自殺行為と認めるのが相当であるが、少なくとも、原告において、偶然性の立証がなされているとは言い難い。

2  本件各契約の解約の効力

【被告】

本件各契約は、平成五年一二月二二日(本件<1>契約)及び平成七年一一月一日(本件<2>契約)に、いずれも原告によりそれぞれ有効に解約されて終了している。

したがって、被告には原告に対する保険金支払義務は存しない。

【原告】

保険契約者の解約権は、保険事故が発生する前、すなわち、保険金請求権が発生する前にのみ行使されることが予定されているところ、原告が解約手続を行った時点では、すでにBの死亡により保険金請求権が発生しており、解約の対象となる継続的契約関係が終了していたのであるから、右解約手続は、対象を欠く無効な法律行為である。

3  保険金請求権の消滅時効の成否

【被告】

保険金請求権は、三年の消滅時効にかかるところ、消滅時効の起算点は、保険事故が発生した時であるから、本件においては、平成四年五月ころであって、その時から三年が経過した平成七年五月ころには時効期間が満了しており、原告が被告に対して本件各契約の保険金請求について照会をした平成八年二月には、本件各契約に基づく保険金請求権はすでに時効により消滅している。

【原告】

生命保険金請求権の消滅時効の起算点に関して、一般論としては被告の主張は正しいとしても、本件のように保険事故発生後三年以上も事故発生が客観的にも不明であった場合にまで、これを適用するのは相当性に欠ける。本件のような場合は、例外として、Bの死亡が「客観的に明らかになった日」、すなわち平成八年一月七日をもって、消滅時効の起算点と解すべきである。

4  和解契約の成否

【被告】

被告は、本件各契約に基づく保険金の支払義務は存しないものと考えていたが、保険金をまったく支払わないというのも遺族に気の毒であるとの配慮から、平成八年四月二七日と同年五月二日に、原告に対し、保険金の支払をできない理由を説明した上で、原告が承諾することを条件ととて、本件各契約全体の和解金として、本件<1>契約の普通死亡保険金相当額から同契約の支払済み解約返戻金を控除した金額を支払うこと、原告においては本件<2>契約の保険金支払請求はしないことを提案したところ、原告がこれを承諾したため、原告に対し本件既払金を支払った。

したがって、本件各契約をめぐる法律関係は右和解契約によりすべて解決済みである。

【原告】

原告と被告との間で本件各契約に関して和解契約がなされた事実はない。

原告と被告間で和解契約書が作成されたことはなく、また、本件既払金も和解金名目ではなく、本件<1>契約の保険金名目で支払われている。

原告は、被告から、本件<2>契約分については免責事由の存在及び時効を理由に支払えないが、本件<1>契約については支払えるとの説明を受けたため、支払可能な分につき請求書に署名、押印したのみであり、それ以外の分について請求権を放棄する旨の意思表示をしたことはない。

5  本件<2>契約に関し、Bの自殺による免責事由の存否

【被告】

本件各契約の約款ないし特約には、被保険者が保険契約の責任開始期間から一年以内の自殺によって死亡した場合には、終身保険及び定期保険特約の各死亡保険金は支払われないことが規定されている。

Bは、本件<2>契約が締結された平成三年一一月二一日から一年以内の平成四年五月ころに死亡しており、かつ、同人には自殺の動機(経済的行き詰まり)があることや、死亡現場、死亡状況に照らして、同人が自殺したことは明らかであるから、被告は、本件<2>契約に基づく保険金支払債務につき免責される。

【原告】

Bの経済状況は必ずしも良好とは言い難いものの差し迫った状況にはなく、その他自殺の動機となる事情は存しないし、また、本件事故現場は、自殺には不向きの場所であり、現場の状況等に照らせば、Bの死亡はカーブを曲がりきれなかったことによる転落事故に起因するものと考えるのが相当である。

第三  当裁判所の判断

一  はじめに

本件<2>契約の終身保険及び定期保険特約の各死亡保険金合計金三〇〇〇万円については、支払事由が生じていることから、原告には右保険金請求権が発生していることは明らかであるが、本件各契約の傷害特約による災害死亡保険金合計金六〇〇万円については、その発生に関して争いがあるため、以下において、まず、右災害死亡保険金請求権の発生の有無について検討し、その後、本件各契約の保険金請求権の抗弁の存否について検討することとする。

二  争点1について

1  不慮の事故、特に偶然性あるいは故意(自殺)についての立証責任

立証責任の分配は実定法上の規定や法体系全体に照らして、統一性、適合性を有するよう解釈すべきである。

ところで、保険制度は、偶然の事故による損害を填補することがその目的であるから、偶然性は保険に付随する当然の前提となっており、現在の実定法上、損害保険、生命保険のいずれにおいても、ことさら請求者に偶然性に関する立証責任を課しているようなことはなく、逆に被保険者の故意に基づくことは、保険金支払の免責事由として保険者において立証責任を負う旨規定されている(商法六四一条、六八〇条一項一号)。

また、前記第二の一の11の(一)のとおり、保険約款にあっては、終身保険や定期特約においては、責任開始日から一年以内の自殺に限り免責事由を定めている。

これらの規定との整合性を考慮すると、傷害特約における、被保険者の故意または重大な過失による死亡の際には災害死亡保険金を支払わない旨の定めは、保険者に支払免責事由を抗弁として定めたものと解するのが相当である。

その結果、約款別表2に規定する不慮の事故の定義として「偶発的な」事故というのは、保険事故の必然的な性質を説明しているものに過ぎないと解すべきであり、保険金請求者に偶然性(すなわち、被保険者の故意による死でないことなど)についての立証責任を課したものとまで認めるのは相当でないというべきである。なぜなら、そもそも、保険金請求者に偶然性の立証を求めるのは困難を強いることとなるうえ(偶然性の立証自体が故意性の立証に比較して難しいばかりか、証拠の収集能力及び分析能力においても請求者と保険者との間には格段の差が存する。)、もしその立証ができなかった場合に保険金が支払われないとなると、保険者は支払免責事由につき立証することなく、保険金の支払を免れる結果となり、右の規定に適合しないこととなるからである。

したがって、保険金請求者は、当該事故が急激かつ外来の事故で分類項目に該当することを立証すれば足り、偶然性に関しては、保険者の方で非偶然性(自殺であること)を立証すべきであると解するのが相当である。

Bの直接の死因については、事故後長期間が経過し、同人の遺体が発見されたときにはすでに白骨化していたこともあって、明確に特定はできていない(乙一一)。しかしながら、後記の事故現場の状況、Bの遺骨の右第一肋骨の中央に亀裂骨折が認められること(乙一一)、他に直接的な原因の存することを窺わせるような資料が存しないことに照らし、Bは、自動車による道路からの転落により負傷し、その傷害を原因として死亡したものと推認するのが相当である。そうすると、Bは、急激かつ外来の事故によって死亡したものということができ、被告において、右転落事故がBの故意または重過失によって惹起されたものであることを立証しない限り、災害死亡保険金の支払義務を免れないこととなる。

2  Bの死亡が自殺によるものか否か

原告は、本件事故は運転ミスによる転落であると主張するのに対し、被告は、Bは、多額の借金を抱え、経済的に行き詰まったことから自殺を決意し、家族の生活を守るために事故死を仮装して保険金の取得を目論んだものであると主張する。

(一) 証拠〔甲一ないし五、七、一〇ないし二一(技番を含む。以下も同様。)、乙三、七、一一、一三、二〇ないし二六、三二ないし四〇、証人新谷宏、証人根岸正明、原告〕及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件事故現場及び遺体発見の状況

本件事故現場は、芦ノ湖スカイライン箱根峠側料金所から約四キロメートルの地点にある杓子峠展望台広場付近である。

平成八年一月七日午後〇時三〇分ころ、料金所方面から走行してきた第三者が、道路左側の右広場の端から手前二、三メートルの所に車を止め、車外に出て回りの景色を眺めていたところ、サイドブレーキが十分でなかったためか、右車両が助手席に人を乗せたままするすると前進し、前方の崖から斜面を滑るように落ちて行き、雑木を次々となぎ倒し、約二〇メートル落ちたところで木に引っかかって停止するという事故が発生したことから、救急隊や警察が到着して搭乗者の救出作業を行った際、右車両の停止位置よりさらに一〇〇メートル近く下方にもう一台の車両を発見し、調査した結果、それがBが運転所有していた車両(以下「本件車両」という。)であることが判明した。遺骨は、本件車両より上方約三メートルの窪み付近で発見されたが、完全なものではなく、上下顎骨が存しなかったため、歯牙による個人の特定はできなかった。しかし、血液型(A型)がBと一致することや現場付近の遺留品(ジャンパー、靴片方、眼鏡フレーム、カセットテープ等)及び事故車両がBのものであることから、右遺骨もΒのものであると判断されたが、死因については特定することはできなかった。警察は、Bの死亡に関して、事故、自殺、他殺の各側面から捜査したが、他殺である可能性は否定されたものの、事故か自殺かは判断できないとして捜査を終了しており、そのせいもあってか、事故証明は発行されなかった。

本件車両は、発見された当時、広場から直線距離で約一二〇メートル下方の雑木林の中に、前方を山側、後方を谷側に向け、仰向けの状態であったが、扉はすべて閉まっていたものの、運転席及び助手席の窓ガラスが全損しており、イグニッションはオン、ミッションはドライブの状態であった(照明が点灯されていたか否かは不明。)。

芦ノ湖スカイラインは、箱根峠から御殿場方面へ抜ける有料道路であり、交通量はさほど多くなく、料金所から本件事故現場に至る間にはそれほど急なカーブはなく、むしろ見通しの良い直線ないし緩やかなカーブが続いており、信号や歩行者もないことから、ある程度の高速度で走行できる道路状況にある。しかし、本件事故現場の手前からは全体として約一六〇度近く右に転回する急カーブ(以下「本件カーブ」という。)となり、本件事故現場は本件カーブを曲がり終える最終部分の左側という位置関係にある。本件カーブの右側は土手になっており、道路の先の見通しが利かないため、どの程度カーブが続くのかその終了地点が見極めにくい。また、本件カーブの左側は崖が続くが、本件カーブの途中に道路から迫り出したような形の、車両を一時停止して周囲を展望することができるスペースが三箇所あり、本件車両の発見場所は、その三つ目の広場(以下「本件広場」という。)の下方である。

本件広場は、未舗装であり、その周囲には当時はまったく柵は設けられていなかった(前記第三者の転落事故以降、転落防止用の柵が設けられた。)。

本件車両の本件広場からの転落地点は、判然としないものの、本件車両の発見位置と第三者の転落事故との位置関係から、右第三者が転落した地点とほぼ同一の地点ではないかと推測されている。そして、右第三者の転落位置は、道路から真っ直ぐ約二〇メートル進行した場所で二個存在する岩の間(道路の端から広場の淵に沿って約一〇メートル余り左側)の地点である。

本件広場から本件車両発見場所までの間は、所々に窪地や岩が存在するだらだらとした傾斜地(最大斜度部分が四五度程度)となっており、一面に高さ約一メートルの笹が密生しており、辺りに背丈の低い雑木が生育している。

(2) Bの家族関係及び事業の推移

Βは、昭和一六年三月一〇日生まれで、昭和四一年に原告と結婚し、昭和四五年九月には長女をもうけた。Bは、無口で仕事熱心な職人気質の性格で、休日でも一人で仕事をすることもあり、また、大の車好きで休みの日には早朝から一人でドライブに出ることも度々あった。

Bは、地元の中学卒業した後、靴の卸問屋に勤務していたが、昭和四三年ころに独立して靴製造業を営むようになり、昭和四七年二月に取引先の倒産の影響を受けて倒産したため、原告の実家に作業場をつくり、細々と靴の裁断加工を始めたところ、順調に推移し、昭和四八年六月に原告の父が死亡して空間が空いたこともあって作業場を拡大し、従業員を雇い入れ事業を拡大してきた。

Βは、原告が父の遺産を取得したことなどから、昭和五一年一〇月、江東区亀戸に原告と共有名義で土地を購入し、その上に、一階を工場、二階を住居とする建物(B所有名義)を新築し、事業も会社組織(有限会社C加工、以下「C加工」という。)として、靴のほかバッグやベルトなどの革製品にも対象を拡大し、順調に業績を伸ばしていった。

その後、Bは、昭和六三年に右地上建物を取り壊し、平成元年に新たにC加工の所有名義で鉄骨造陸屋根四階建ての作業所兼共同住宅(以下「本件A'物件」という。)を建築し、自宅兼作業所とすると共に、一部を賃貸していた。また、Βは、平成元年一一月ころ、酒屋の営業権付きの古屋と土地を買い取って、新しいビルを建てて賃貸することを、都民信用組合や不動産業者の勧められたことから、都民信用組合から事業資金を借入れて右事業を進め、平成三年三月に新しいビルを竣工した(以下、この土地建物を「本件B'物件」という。いずれもC加工所有)。その間、原告は、営業を引き継いだ右酒屋の経営を任され、本件B'物件を処分するまでその営業を継続した。なお、この時点では、都民信用組合からの借入金は、本件A'物件関係等で金一億円弱、本件B'物件関係で金四億二〇〇〇万円程度、合計金五億二〇〇〇万円近くに上っていた。

しかし、本件B'物件竣工後もこれに思ったような借手かつかなかったため、そのまま所有するよりも早期に処分した方が損失の拡大を回避できるとの会計事務所や原告の勧めに従って、Bは、平成三年八月、本件B'物件を金四億円弱で売却処分し、その代金で都民信用組合に対する債務の返済に充てたが、なお、金一億五、六〇〇〇万円の債務が残っていた。

(3) Bの失踪前のC加工の経営状態

C加工は、バブル経済のころは順調に売上を伸ばしており、平成元年度(昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日)においては、本件A'物件の取得資金として金一億円程度の借入金の金利負担にもかかわらず、決算は黒字であった。平成二年度は、さらに借入が増え、金利負担が増大していたことから、決算は金三三五万円強の赤字であった。平成三年度は、本件B'物件の取得資金を借入れたため、当期損失は金三二四七万円強となったが、その損失のほとんどが右借入金の支払金利であった。平成四年度(平成四年七月三―日まで)は、B'物件を処分したため、残債務が減少したことによって、支払利息(金九〇〇万円弱)が大幅に減少したが、B'物件の売却に伴う諸費用等(売却損、仲介手数料等)金三四〇〇万円弱を計上することとなり、営業損失金一〇〇万円強を加えて当期損失は合計金四三七〇万円強となった。

(4) Bを被保険者とする生命保険の締結状況

原告は、被告の外交員をしている青谷イチ子(以下「青谷」という。)と古くから親しくしており、以前に同人との付き合いで、Bを被保険者、C加工を契約者とする保険契約を締結していたが、保険料の支払の手違いにより失効してしまったので、会計事務所の紹介により、昭和六四年一月一日、大同生命保険相互会社との間で、Bを被保険者、C加工を契約者とする保険金合計金一億円の保険契約を締結した。

その後、原告は、被告の外交員で、契約が取れる度に、その客に契約に対するお礼にと、当時原告が営業していた酒屋でウイスキーを買っていってくれる顧客がいたことから、その付き合い上、同人の担当により、平成二年五月一日、被告との間で、本件<1>契約を締結した。

また、平成三年一一月二一日、原告は、それまでにも青谷を通じて娘や従業員の保険に加入していたが、さらに青谷から勧誘され、同人の成績にもなると考え、被告との間で、本件<2>契約を締結した。

Βは、生命保険にはまったく無関心であったため、右各保険契約は、いずれも原告が主体的に手続を勧め、Bがこれを了承するという形であった。

(5) Bの健康状態

Βは、平成四年五月七日、周囲の者から体のむくみを指摘されたため、近くの病院を訪れ、血液検査をした結果、肝機能に異常があることが判明したものの、Bには自覚症状がなく、その程度や原因については次回に精査する予定であったが、以後、病院に行くことはなかった。

(二) 以上の事実に基づいて、Bの自殺の可能性について検討する。

本件車両の発見場所が本件広場から一二〇メートルも下方であることから、本件車両が相当な速度で転落したことが推認され、また、本件車両の本件広場からの転落位置が、道路から真っ直ぐ本件広場に進入した地点と推定されることから、確かに、Βが、死を覚悟の上、高速度でわざと道路からはみ出し本件広場を横切って転落した可能性も考えられなくはない。原告が主張するように、本件カーブを曲がろうとして曲がりきれなかったというのであれば、転落位置がもっと道路寄りで、転落角度も道路に沿った角度で落下するのが自然と考えられるのに対し、本件車両は、道路から真っ直ぐ直線的に放り出されたように転落していることから、カーブが急で曲がりきれなかったという状況とは必ずしも一致しないように思われる。

しかしながら、本件事故現場が一六〇度も大転回する本件カーブの最終地点であること、本件カーブの右側は土手になっており、道路の先の見通しが利かないため、どの程度のカーブが続くのかその終了地点が見極めにくく、本件広場の手前には道路左側にガードレールがあるのに対し、本件広場部分ではガードレールが切れており(甲三、一一、一四、一八、乙三二の1、3)、本件広場の端に柵もなかったこと、本件現場付近は霧が発生することも稀ではないこと(甲一八、弁論の全趣旨)などから、Βが、道路がなおも右にカーブしているにもかかわらず、カーブが終了し道路が真っ直ぐ続くものと誤信して進行した可能性もまったく否定することはできない。

また、本件事故現場は、断崖絶壁というわけではなく、傾斜がさほどきつくはないうえ、笹や雑木が生い茂り、それらがクッションの役目を果たすことから、本件広場からの転落が確実に死を招来するとは限らない状況である(本件車両は発見時に扉は閉まっていたのであるから、Bも転落途中に車外に投げ出されたとは考え難く、転落により直ちに死亡することなく、負傷して車外に這い出してきた後、救助されることなく窪地において死亡したものと推認できる。)。

被告が自殺の動機として主張するBの経済状態については、確かに厳しい状況が続いていたが、本件B'物件の処分することができたことにより、債務額は一時期に比較して大幅に減少し、状況は多少とも改善されていたこと、C加工の損失の大部分は、本件A'、B'物件に関する借入金に起因するものであって、バブル経済の崩壊にもかかわらず、本体の事業が深刻な経営不振というわけではなかったこと、借入先はいわゆるサラ金や街金等ではなく正規の金融機関であり、返済条件や金利等に関しても相談、交渉することも不可能ではないこと、C加工にはまだ本件A'物件が資産として残っており、まったく無資産というわけではないことなどの諸点に照らせば、必ずしも経済的に抜き差しならぬ状態に立ち至っていたとまでは認めることはできない。

さらに、本件各契約を含むBを被保険者とする生命保険は、その金額及び締結状況に特段不自然な点は存せず、かつ、Bは、その手続は原告に任せっきりで、具体的内容を知らなかったであろうから、保険金を取得することを目的に自殺したというのも合理的とは言い難い。

また、Bが家人に行き先も告げずに外出することに関しても、これまでにも一人でドライブに出かけることも希ではなかったことから、特段不自然とまでは言えないし、Bの健康状態が万全でなかったことが認められるものの、そのはっきりした原因については精密検査を要するところ、B自身自覚症状がなかったことから、以後病院に行っておらず、健康状態を悲観しての自殺と考えることは困難である。

以上の諸点を総合しても、Bの失踪前の経済状態は相当苦しかったことが窺われるものの、前記の事実関係に照らしてそれが直ちに自殺に結び付くものとまで認めるには十分ではなく、また、本件事故現場の状況や保険加入状況等からも、本件事故がBの運転ミスにより生じたものか、Bの故意によって惹起されたものか、いずれとも判断することは困難というほかない。

(三) そうすると、本件事故がBの故意によって惹起されたものと認めることができないから、被告は、本件各契約の災害死亡保険金について、その支払を免れる免責事由の立証がないといわざるを得ず、その支払を免れないこととなる。

三  争点2について

1  原告が、平成五年一二月二二日及び平成七年一一月一日に、本件各契約についてそれぞれ解約手続を行ったことは、前記第二、一の5及び6記載のとおりである。

ところで、本件各契約の約款(終身約款第二一条等)には、保険契約者は、いつでも将来に向かって保険契約を解約し、解約返戻金を請求することができる旨規定されている(乙一、二)。この保険契約者の解約権は、保険料等の負担からいつでも免れることができ(かつ、既払保険料に対応する解約返戻金を取得することができ)るよう、専ら保険契約者側の利益のために認められているものと解される。そうであるならば、右解約権は、保険事故が発生する前の、保険契約者が保険料支払義務を負担し、保険者がいまだ確定的に保険金支払義務を負っていない状態の、いわば継続的契約関係の解消を目的とするものといえる。しかしながら、本件においては、原告が解約手続を行った時点では、客観的にはすでにBの死亡により保険金請求権が発生し、解約の対象となる継続的契約関係が終了していたのであるから、右解約手続は、結果的にはその対象を欠く無効な法律行為であるというべきである。

また、仮に解約手続自体が有効であるとしても、保険契約者の解約権が右の目的、性質を有するものである以上、保険契約関係を将来に向かって消滅させるものであって、解約手続前に発生している保険金請求権を消滅させるものでないことはいうまでもない。

2  以上のとおり、原告による本件各契約の解約手続は、本件保険金請求権に何らの影響を及ぼすものではないから、被告の右主張は採用できない。

四  争点3について

1  本件各契約の約款上、消滅時効期間は「三年間」で、「支払事由が生じた日の翌日」から起算することが明記されており、「支払事由」は被保険者の死亡とされていることは、前記第二の一の11のとおり、当事者間に争いがない。

そして、Βは、平成四年五月ころに死亡したと推定されるのであるから、原告が被告に保険金請求の照会をした平成八年二月時点では、すでにBの死亡から三年以上が経過していることは明らかである。

2  原告は、Bの死亡が客観的に明らかになった平成八年一月七日時点ですでに同人の死亡推定時期から三年が経過しているのであるから、右の解釈では、原告が保険金を請求できる余地はないことになり、結果的に不合理であって、かかる場合には、例外的に取り扱うべき旨主張する。

3  もともと、商法は、保険金請求権の消滅時効に関しては二年の短期消滅時効期間を定めており(六六三条)、生命保険にも右規定が準用されている(六八三条一項)。

保険金請求権に短期消滅時効が採用された実質的理由としては、一般に、保険制度の技術性・団体性のため、相当期間経過後に過去の保険金請求を認めることは、保険事業の円滑な運営を阻害し、迅速決済が実現されないためであると説明されている。ところが、生命保険にあっては、保険金請求権を発生させる保険事故、ことに被保険者の死亡が、権利者の不知の間に生じることが少なくないことや、保険金受取人の指定が本人の知らない間になされ、権利者となるべき者が契約の存在を、したがって自己の権利の存在を知るのが遅れることがあることなどの点に鑑み、各社とも約款において、時効期間を三年に延長しているものと認められ、右約款の有効性は一般に承認されている(乙三一、弁論の全趣旨)。

被告は、保険金請求権に短期消滅時効が定められている趣旨や、永続する事実状態を尊重することによる法律関係の安定、時間の経過による立証上の困難の回避などの時効制度の存在理由(権利の上に眠る者は保護に値しないというのは、時効制度の合理性を消極的に援護する付随的理由に過ぎず、必ずしも本質的・積極的根拠ではない旨主張する。)を根拠に、保険金請求権の消滅時効の起算点につき、保険事故発生(被保険者の死亡)の時と解すべきで、原告主張のような例外をもうけるべきではない旨主張する。

確かに、技術性・団体性を有する保険契約を巡る法律関係は可及的速やかに確定される必要がある。しかしながら、生命保険請求権に関して約款で時効期間が延長されている背景をも考慮しつつ、権利の上に眠る者は保護しないという理由は時効制度の消極的な理由にすぎないとしても、これを無視すべきではなく、時効制度の存在理由、関係者の利害の衡平等を調和的に解釈すべきである。

原告は、Bの死亡後三年以内の間に保険金請求を行うことは不可能であり(原告自身、死体も発見されない状況下ではBの死を受け入れることはなかったであろうし、仮にそうでなくとも、Bの死亡を立証することは不可能であったし、失踪宣告を申し立てたとしても期間未経過である。)、たとえ請求したところで被告が保険金の支払をするとは到底考えられない。原告は、三年八か月間、Bの死亡の事実を知らなかったのであるが、それは原告が単に主観的に知らなかったのではなく、客観的にも知りようがなかったのであって、その間、原告には他に取りうる手段がまったくなかったのである。このような場合にまで、保険請求権者の権利を犠牲にして法律関係の早期安定という要請を最優先するのは相当とは思われない。被告自身においても、原則的解釈から導かれる結果が不合理であると考えたからこそ、本件<1>契約の普通死亡保険金の支払には応じたことが窺えるのである。

このように、原則的には、約款の定めるとおり、保険事故発生の翌日から時効期間を起算すべきであるとしても、権利者において、およそ権利行使を期待することが不可能であるような場合には、法律上の障碍が存する場合に準じて、その障碍が除去されたときから時効が進行するものと取り扱うのが、時効制度の趣旨を生かしつつ当事者間の衡平にも資するものと解する。

(もっとも、かかる解釈によれば、被保険者の生死が不明な場合は永久的に権利関係が確定しないということになりかねない。しかしながら、生死不明の場合でも、七年間を経過すれば、失踪宣告を受けることにより、法律上の死亡を原因に保険金請求することが可能となるのであるから、被保険者が失踪して七年以上が経過したにもかかわらず、かかる手続を取らずさらに三年間が経過した場合(すなわち、被保険者の死亡から一〇年が経過した場合)には、請求権に対する障碍が除去されたにもかかわらず、権利行使しなかったものと認めることにより、それ以後の請求を封じることも考えられる。)

4  よって、本件各契約に基づく保険金請求権が時効消滅したという被告の抗弁は採用できない。

五  争点4について

1  証拠(甲六ないし九、一九、乙一二、四七ないし五七、五九ないし六一、証人飯島敏雄、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成八年二月二〇日、本件<2>契約を募集した青谷を通じて被告に対し本件各契約に基づく保険金請求の照会をしたところ、被告は、被告江東支社の飯島敏雄(以下「飯島」という。)に指示し、原告との交渉に当たらせた。

その際、被告は、(1)本件各契約はいずれも時効対象契約であること、(2)Bが死後四年近くが経過し白骨体として発見されているため、その死因が不明であること、(3)本件<2>契約については加入後一年以内の死亡であり、自殺免責の可能性も考えられるため、今回は時効として処理すること、(4)本件<1>契約については一年以上経過しており、主契約については免責条項に該当する可能性は少ないものと判断されるが、死亡当時の状況など不明な点が多く災害性の判断が付きかねるので、普通死亡保険金支払とし、災害死亡保険金支払対象外とすることを理由として、本件<1>契約の普通死亡保険金のみ支払い、本件<2>契約については時効を理由に支払わない方針で、飯島に対し、原告に右決定とその理由を説明し納得してもらい、本件<1>契約の普通死亡保険金の支払請求をさせるように指示した。

(二) 飯島は、平成八年四月二七日、青谷と共に原告方を訪れ、一人でいた原告に対し、前記指示内容を記載した被告本社からの連絡文書(乙五一)に基づいて、まず、本件<1>契約の普通死亡保険金については支払が可能であるが、本件<2>契約分については支払ができないとの結論から切り出し、順次その理由を説明したが、原告は、本件<2>契約に関しては自殺の可能性があるからとの説明には納得がいかず、Bが自殺するということは考えられず、本件事故現場や死体発見の状況から見ても事故である旨主張し、被告の調査会社に対して白紙委任状を提出しているので調査結果を知らせて欲しい旨申入れたことから、飯島は右申入れを本社に伝えることを約束して辞去した。

(三) 飯島は、平成八年五月二日、再び青谷と共に原告方を訪れ、事故が古いことなのでこれ以上調査をしても詳細について判断しかねるとして、前回の決定が変わらないことを伝え、本件<1>契約の普通死亡保険金の請求手続を取るように勧めたところ、原告も事故証明がとれないのでしようがないと言いつつ、飯島らに勧められるまま本件<1>契約の普通死亡保険金請求書(乙一二)に署名押印し、請求手続を完了した。

その際、原告は、飯島らから支払われる保険金について具体的な使途が決まっていないなら、新しい保険に入って欲しいと頼まれ、これを了承した。

なお、飯島は、その後、請求書の記載が十分でないと被告本社から指摘を受け、後日、原告に「すでに受け取っている解約返還金四〇万二一八〇円を死亡保険金から控除することに了承します。」との文言を新たに迫加記入してもらった。

(四) 原告は、平成八年五月二二日、本件既払金の支払を受けたが、翌二三日、その中から金五〇〇万円(期間一〇年)二本、金三〇〇万円(期間一五年)一本の合計金一三〇〇万円分の一時払いの保険に新規加入した。

その後、原告は、平成八年六月、C加工の経理を見てもらっていた会計事務所に残余の保険金の請求について相談に訪れたところ、原告訴訟代理人らの法律事務所を紹介され、同弁護士らと協議した結果、同年七月二九日付で被告に対して残余の保険金の支払を請求する内容証明郵便を送付してもらった。

2  右のとおり、被告内部においては、本件<1>契約の普通死亡保険金を支払うことで、本件各契約の保険金全体の一括処理をする意図であったことが窺える。しかしながら、飯島は、原告が本件<1>契約の普通死亡保険金請求書の作成に応じてくれたことから、被告が残余の保険金を支払わないことについて納得してくれたものと理解した旨供述するものの、他方、交渉に当たって和解という言葉を使用したことはなく、また、本件既払金の支払を受けるとその余の保険金請求ができなくなると説明したことはないし、原告からも以後残余の保険金請求をしないとの確認を得ていない旨供述していることに照らせば、前記認定事実をもって、原告と被告間において、本件各契約による保険金に関し、本件<1>契約の普通死亡保険金の支払をもって、すべてを解決する旨の合意が成立したとまでは到底認められない(被告は、既払解約返戻金の控除についてさえ、文書を作成しているのであるから、より重大な残余の保険金の支払をしないこと、ないしは原告において請求しないことについて合意が成立していたならば、これを明確にするために文書を作成すべきである。)。

自分は素人であるから保険金請求についてはよく分からないため、取り敢えず被告が支払可能であるという保険金の支払請求をして支払ってもらってから、支払を拒否された分については専門家に相談して対応しようと思ったという原告の供述は、原告が、本件既払金を取得した直後から、残余の保険金の請求に関して第三者に相談するなどの行動をとっていることに照らせば、なんら不自然なものではなく、十分信用できるものというべきである。

3  したがって、原告と被告間において、和解が成立しているとの被告の主張は採用できない。

六  争点5について

これについては、すでに争点1において検討したとおり、Βが自殺したことを認めるにまでは至らないことから、本件<2>契約の保険金に関する免責事由についての立証がないというほかない。

七  結論

以上の結果、被告が主張する抗弁はいずれも認めることができないことから、原告の被告に対する本件請求は、すべて理由があるのでこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

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